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生命科学コースでは、大学Web上で講義、学生のさまざまな活動や卒業生の声を連載形式で紹介しています。本年度は、昨年の新任教員インタビュー(金岡教授)に続き、教員の研究活動やこれまでの歩みについてインタビュー形式の連載としてお届けすることにしました。初回の福永教授、細胞機能制御学研究室の齋藤教授に続き、今回は、動物生殖生理学研究室の山下准教授です。
動物生殖生理学研究室(3号館6F,3603室)
担当講義科目:生理学,発生?生殖科学,畜産学概論,分子生理学(大学院)など
現代の日本では,昨年度不妊症を対象とした治療が保険適応となったのをみればわかりますが,男女ともに晩婚化を背景とした不妊治療の重要性が増しています。不妊症の原因は様々ですが,女性側の要因が41%と割合は一番高く,次いで男性側の要因が24%,男女共通の要因の24%の順になっていて,女性に起因する不妊症が多くの割合を占めています。このことから,私たちの研究室では,特に女に起因する不妊症の原因を追究し,予防法や治療法を開発することを目的として研究を行っています。
女性の卵巣では,卵胞発育と排卵を繰り返しています。もしも排卵された卵子が,精子と受精し妊娠すると,この周期は産子が得られるまでストップしますが,受精が起こらなかった場合は,またこの周期が繰り返されることになります。この卵胞発育と排卵の繰り返しを性周期と言って,ヒトでは28日周期,ウシやブタでは21日周期で卵巣で生じます。卵巣には,未成熟な卵子を含んだ卵胞という袋がたくさんあって,これが風船のように膨らんで成長し,破裂して成熟した卵子(受精し発生することが可能な卵子)が卵巣から卵管に飛び出して,卵管で精子と受精します。この未成熟卵子が成熟卵子へと変化するために必要な現象である「風船が膨らんで成長して,破裂する」ということがどのような因子により生じるのかについてはよく分かっていない部分が多い分野です。
卵巣にある卵胞が膨らむことを「卵胞発育」,破裂することを「排卵」といいます。この卵胞発育と排卵は先ほど言った通り21日周期で起こるのですが,これらには脳からの指令により生じます。高校生の生物の教科書でも書かれていることですが,この脳からの指令は下垂体前葉から出ていて,これには2つのホルモンが関与しています。FSH(卵胞刺激ホルモン)は,卵胞発育が進行し,LH(黄体形成ホルモン)に従って排卵が生じさせるホルモンです。FSHは,卵胞に作用して卵胞にある顆粒膜細胞という細胞を刺激する結果,卵胞発育という生理現象が生じ,発育した卵胞にLHがさらに作用することにより排卵という生理現象が生じます。生物の教科書には,ある刺激が入ると核でDNAを鋳型にメッセンジャーRNA(mRNA)が作られて,これがリボゾームまで運ばれてタンパク質に翻訳されること,この結果生理的変化が生じることが記載されていますが,このFSHにより誘導される卵胞発育とLHにより誘導される排卵も同様です。
私たちの研究室では,この卵胞発育と排卵を誘導するFSHとLHの刺激により卵胞でどのような遺伝子が発現し機能するのかについて調べ,卵胞発育と排卵のメカニズムを明らかにしたいと思って研究を進めています。
先ほど述べましたが,不妊症の原因には女性側の要因がいちばん大きい割合を占めています。その内訳を見ると,卵胞発育や排卵という現象が生じない卵巣に原因がある「排卵障害」の割合がいちばん高く40%を占めています。これ以外には卵管でなんらかの原因で受精や胚発生が起こらない卵管因子が30%,子宮で胚の着床が起こらなかったり,着床しても胚が生育しない子宮因子15%と続きます。このことは,不妊症を引き起こしている原因の多くは卵巣になんらかの障害が生じていることを示しています。このような卵巣における障害は「正常」であるものが「正常でなくなった」状態になったことから生じていると言えることから,まずは「正常」とはどういう状態なのかを知る必要があります。このため,卵胞発育と排卵のメカニズムを正しく知る必要があるのです。また,「正常